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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)2899号 判決 1963年10月08日

控訴人(附帯被控訴人) 小林彦之丞

被控訴人(附帯控訴人) 破産者 有限会社持田工務所 破産管財人 桃井[金圭]次

主文

本件控訴を棄却する。

附帯控訴により原判決を次の通り変更する。

控訴人は被控訴人に対し金五〇万五九七七円及びこれに対する昭和三五年二月二六日から完済まで年五分の割合による金員を支払い、且別紙第一目録<省略>記載の物件を引渡せ。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

その余の部分については本件附帯控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ四分しその一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

本判決は被控訴人勝訴の部分に限り仮にこれを執行することができる。

事実

控訴代理人は控訴について『原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。』との判決を求め、附帯控訴に対し附帯控訴棄却の判決を求めた。被控訴人は控訴に対し控訴棄却の判決を求め、附帯控訴として「原判決中『附帯控訴人のその余の請求を棄却する』とある部分を取消す。附帯被控訴人は附帯控訴人に対し金五九万六〇〇〇円及びこれに対する昭和三五年二月二六日から完済迄年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも附帯被控訴人の負担とする。」との判決並に仮執行の宣言を求めた。

被控訴人主張の請求原因は原判決事実摘示記載の通り(原判決二枚目表四行目より三枚目表九行目まで)であるから、これをここに引用する。但し原判決添付の別紙第一目録を本判決添付の別紙第一目録の通り訂正する。(以下別紙第一目録とは本判決添付の別紙第一目録を指すものとする。)

控訴代理人は被控訴人主張の請求原因たる事実に対する答弁として、

『訴外有限会社持田工務所(以下破産会社と略称する)は土木建築の請負を業とする会社であつたが、昭和三三年八月一八日訴外株式会社津ノ国屋材木店外三名からの破産申立により昭和三四年一月三〇日横浜地方裁判所において破産宣告をうけ、同時に被控訴人がその破産管財人に選任されたこと、これより先昭和三三年六月二七日破産会社が支払停止をしたこと、控訴人が同年七月上旬頃原判決添付の別紙第二目録記載の物件中若干のものを搬出したこと、その際原判決添付の別紙第三目録記載の小屋二棟を取壊し、その材料と別紙第一目録記載の物件を搬出し、現に別紙第一目録記載の物件を占有していることは、いずれもこれを認める。破産会社代表者持田巧治が昭和三三年七月一日頃訴外有限会社深井工業所代表者深井広三郎に対し原判決添付別紙第二目録記載の物件を無償譲渡し、控訴人がその頃右の事情を熟知しながら、深井からこれを金二〇万円で買受け、同月一五日までの間にこれを搬出して他に処分したこと及び前記二棟の小屋の時価を否認する。

原判決添付の別紙第二目録記載の物件の数量価格は、破産会社の帳簿面によるものであつて、控訴人が搬出する前既に第三者がトラツク二台分に相当する数量の物件を搬出していたばかりでなく、もともと右物件の多くは古材のためその相当量が散逸消耗していた形迹があり、同目録記載の数量価格は相当過大に見積もられているのである。』と答え、抗弁として、

『(一)、控訴人が前記小屋二棟を取壊して搬出し、又別紙第一目録記載の物件及び原判決添付別紙第二目録記載の物件の内若干を搬出したのは、昭和三三年七月初め頃破産会社の総債権者が同会社に集り、債権者全員の利益保護のため訴外長島武雄ら五名を債権者委員に選出し、同人らが破産会社代表者持田に当時同会社の前記小屋二棟、別紙第一目録記載の物件及び原判決添付の別紙第二目録記載の物件の若干を総債権者に対する債務の代物弁済として提供することを求めたところ、同人はこれを承諾し、その価格は相当価格をもつて後日決定して総債権者の債権額に応じて按分することとして、これを提供し、控訴人は債権者委員の要請により同委員からこれを金二〇万円で買受けたものである。

(二)、仮に右の代物弁済の事実がないとしても、該譲渡は破産会社の資産負債状況を調査する費用並びに弁護士を依頼する費用の捻出のため、総債権者が破産会社より残材の無償譲渡を受けたものであり、当日若干の債権者が欠席しこれを知らなかつたとしても、右費途からみて同人らの利益にこそなれ害せられることはないので、これらの人が出席したならば、必ずこれに賛同した筈であるから、右少数欠席者にかかわることなく総債権者が譲受けたものと同視すべきであり、そして右総債権者はこれを適正価格で控訴人に売却し、その代金を以て、弁護士に依頼する費用、破産会社の財産調査の費用、破産申立の予納金に充て、破産手続を開始しうるに至つたもので、これを実質的にみれば、右残材の無償譲渡は総債権者の利益にこそなれ害にはならないから、否認権の対象になりえず、無論控訴人は右の無償譲渡に否認原因のあることを知らなかつたから、本件否認権の行使は失当である。

(三)、仮に本件否認権の行使が正当であるとしても、控訴人が残材の代価として支払つた金二〇万円を以て債権者らが破産手続費用や破産会社の財産を調査保全する費用に充てたのであり、換言すれば総債権者の共同の利益のための裁判上の費用に充て又は破産財団の負担すべき管理費用を立替支払つたものであつてもし右残材譲渡行為が無効となれば控訴人は右代金相当額の返還を求め得べく、この返還請求権は結局右使途からみて財団債権たるべきものであるから、控訴人はこれを自動債権として、否認権行使に因る償還債務と対等額で相殺する。』

と主張し、

被控訴人は右(一)及び(二)の主張事実を否認し、右(三)の主張事実に対し控訴人が残材の買受代金として債権者らに金二〇万円を支払つたことを認めるが、その余の主張事実を争う。被控訴人の否認権行使に基く請求は、控訴人の買受当時の残材の時価より控訴人の支払つた金二〇万円を控除した残額を請求するものであるから、控訴人主張の如き反対債権は成立する余地がない、と答えた。

立証<省略>

理由

訴外有限会社持田工務所(以下破産会社と称す)が昭和三三年六月二七日支払を停止し、同年八月一八日訴外津ノ国屋材木店外三名の破産申立により昭和三四年一月三〇日破産宣告を受け、被控訴人(附帯控訴人、以下同じ)がその破産管財人に選任されたことは当事者間に争がない。

被控訴人は破産会社が支払停止後昭和三三年七月一日訴外有限会社深井工業所に対し原判決添付の別紙第二目録記載の物件を贈与し、深井工業所はその頃更にこれを控訴人(附帯被控訴人、以下同じ)に譲渡したとして、右贈与を否認するので按ずるに、成立に争のない乙第一号証、原審証人橋本光の証言により真正に成立したものと認められる乙第二号証、原審における証人持田巧治、同山口達朗、同深井広三郎(一部)、同橋本光の各証言及び原審における控訴人本人尋問の結果を綜合すれば、『破産会社は昭和三三年六月頃経理状態が極度に悪化し、代表取締役持田巧治が一時姿を晦ますことがあつたりしたので、債権者らが騒ぎだし、同年七月一日三〇名前後の債権者が集つて協議の上、差当り弁護士を依頼して破産会社の正確な資産負債を調査し、これに基き善後策を講じようということになつたが、債権者中誰もその費用を負担するものがなかつたので、この費用を捻出するため破産会社に交渉して残材を提供させることとし、その場で控訴人ほか四名の債権者が当日集つた約三〇名の債権者の代表として選ばれ、破産会社代表取締役持田巧治と話合つた末、破産会社の置場にあつた同会社所有の木材丸太仮枠材その他の残材一切(以下残材等と略称する、)を無償で譲受け、その頃これを控訴人に代金二〇万円で売渡し、その代金を訴外山本弁護士に渡し、破産会社の財産調査、破産申立の費用、弁護士報酬その他に充てた』事実が認められる。而して右の残材等の数量価格について按ずるに、原審証人永見徳雄の証言により真正に成立したものと認められる甲第一号証の八、原審証人持田巧治の証言によりいずれも真正に成立したものと認められる甲第三号証の一乃至三、成立に争のない甲第四号証、原審における証人山口達朗の証言及び同永見徳雄、同持田芳子、原審及び当審における証人持田巧治の各証言の一部を綜合すれば、『昭和三三年四月末日当時破産会社は原判決添付の別紙第二目録記載の数量の木材、サポート、丸太、パネル等(但しパネルは一六五〇枚)を所有し、そのパネルの中には同年三月買入れたパネル一〇五〇枚、昭和三二年一二月買入れたパネル一三〇枚が夫々含まれていたが、(昭和三三年六月一六日訴外株式会社白井組がパネル二五〇枚、丸太一〇〇本、バタ角一〇〇本を借用搬出し、又破産会社は昭和三三年五月以降も僅かながら工事を実施していたので、これに伴い前記残材等にも損耗廃棄を生じたものと察せられるが、)昭和三三年七月一日当時破産会社の施工中の工事は終了したので、使用可能の残材等は破産会社の置場に集積され、そのうちパネルは少くとも一〇〇〇枚以上あり、うち八〇〇枚は同年三月買入れた一〇五〇枚より前記白井組が借用搬出した二五〇枚を控除した残りで、一回使用したもの、残るうちの二〇〇枚は前年一二月頃に買入れたもので二回使用したものと推断され、パネルは三、四回の使用に堪え、一回の使用により二割位減価償却すべきものとされているので、二回の使用では五割を減価償却するのが相当と推断され、パネルの購入価格は一枚は三六五円乃至四〇五円(大部分は三九〇円)であるから、これにより計算すると、右一〇〇〇枚の価格は金二八万八二七五円(計算は別紙<省略>の通り、結局甲第一号証の八の財産目録記載のパネルの価格の約五割に当る、)となり、当時パネルは少くとも右価格以上のものが置場に残存していたもの』と推定される。

その他の木材丸太サポート等の残材については昭和三三年四月以降における損耗廃棄の程度を適確に判定できる証拠はないが、前顕証拠によれば、控訴人は買受けた残材等を延一〇数台の普通貨物自動車及び三輪自動車に積載して搬出した事実が認められ、右事実と前記の通り訴外白井組が借用搬出したほかは、昭和三三年五月一日以降特別多量にこれらの残材等が損耗散逸したと認むべき格別の証拠のない本件においては、なお相当の数量に上る残材等が残つていたものと推定すべきであり、その価格はパネルの場合と同様二ケ月前の財産目録(甲第一号証の八)記載の価格の五割以上即ち金三四万九七〇二円以上(計算別紙の通り)と推断するのが相当である。よつてこれと前示パネル代金とを合計した金六三万七九七七円以上の価格の残材等が無償譲渡されたものと認むべきであつて、右認定に反する原審証人深井広三郎、同橋本光、同山崎信治、同永見徳雄及び同持田芳子の証言の各一部、原審並びに当審における控訴人本人尋問の結果及び証人持田巧治の証言の各一部はいずれもこれをたやすく措信できない。以上の次第で、要するに昭和三三年七月一日約三〇名の債権者が破産会社より金六三万七九七七円以上の残材等を無償で譲受け、その頃これを控訴人に金二〇万円で売却した事実を認めることができる。

被控訴人は破産会社が訴外有限会社深井工業所に対し残材等を贈与したとし、右の贈与を否認すると主張するが、右の事実を認めるに足りる証拠はない。然し被控訴人の請求が破産法第八三条第一項第一号に基き転得者たる控訴人に対し残材等の価格の償還を求めるものであることに徴すれば、その主張の要点は、控訴人に対する関係でその前者に対する破産会社の無償譲渡行為を否認することにあるものと解され、必ずしもその前者が誰であるかに拘泥するものではなく、従つて、右の前者が有限会社深井工業所ではなく、前認定の通り約三〇名の債権者であつても、依然否認権を行使するものであることは、口頭弁論の全趣旨に照らしこれを看取するに難くない。(原審は無償譲渡をうけたものは前記の通り約三〇名の債権者であると認定した上、被控訴人の請求の一部を認容したものであるが、被控訴人はこれに対する控訴人の控訴を理由がないと争つている。)そして控訴人が前記約三〇名の債権者の代表者の一員として残材等の無償譲受けの衝に当つたことは、前認定の通りであるから、控訴人が右債権者らより更にこれを買受けるに際し前者に対する否認の原因のあることを知つていたことは明らかであると謂うべきである。而して破産法第八三条第一項第一号に基き転得者に対し訴を提起する場合は、同時に受益者を共同被告とする要はなく、この場合同条項及び同法第七六条に照らし否認権の行使は転得者に対する訴に於て行使されれば足り、別に受益者に対し否認の意思表示をする要はないものと解される。以上の次第で結局被控訴人の本件否認権の行使は正当と謂わなければならない。

而して原審における証人山崎信治の証言及び控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人は前記の通り残材等を取得後これを処分又は使用してしまい、残材等は殆んど現存せず、若干残存しているとしても右使用による毀損の度が著しく、到底買受当時の状態のままではないことが認められ、右認定に反する当審における控訴人本人尋問の結果は措信できない。かように控訴人の処分使用により残材等が散逸、滅失又は損耗したときは、現物の返還請求に代えその価格の償還を請求しうるものと謂うべく、その場合本件残材等は大部分が日時の経過による自然的損耗の度合が小さくないものと考えられるから、かかる場合は無償譲渡当時の時価を基準とするのが相当であるし、然らざる残材等についてはその後その種の物件の価格が下落したことを認むべき証拠はないので、被控訴人は控訴人に対し昭和三三年七月上旬の無償譲渡当時の時価たる前記六三万七九七七円の償還請求をなしうるものと解するのが相当である。

控訴人は『総債権者が破産会社より代物弁済として若干残つていたパネルサポート等の残材を他の物件とともに譲受けた』と主張するが、乙第一号証は原審証人深井広三郎及び同橋本光の各証言に照らし右の主張を肯定する証拠となすには足りず、他に右主張を認むべき証拠はない。

次に控訴人は『債権者が破産会社より残材等の無償譲渡を受けたとしても、それは破産会社の財産調査、破産手続費用等総債権者の共同の利益のために必要な費用を支弁するため、総債権者が無償譲渡を受けたものであるから、否認権の対象とならないし、仮に一部債権者がこれを知らなかつたとしても、前記七月一日の債権者の協議の席にでていたならば、必ず右の措置に賛成したものと考えられるから、総債権者が無償譲渡を受けたと同視すべきである、』と争うのでこの点を調べる。原審における証人永見徳雄の証言により真正に成立したものと認められる甲第一号証の九及び原審並びに当審における証人持田巧治の証言によれば、昭和三三年七月一日当時破産会社の債権者は六〇名を超えるところ、当日集合したのは前記の通り三〇名位であつて、原審における証人橋本光の証言並びに原審及び当審における控訴人本人尋問の結果中『当日欠席の債権者に対しては電話連絡の結果出席債権者に善後策を一任して貰つた』旨の供述は当審における証人持田巧治の証言によりいづれも真正に成立したものと認められる甲第五号証の一乃至四及び原審並びに当審における証人持田巧治の証言に照らし措信できないから、破産会社より残材等の無償譲渡を受けてこれを二〇万円で控訴人に売却したのは、当日集合した約三〇名の債権者であると認めるほかはなく、控訴人主張の如く総債権者の利益のためにしたのであるから総債権者が賛成する筈であると謂うだけでは、右の行為を以て法律上総債権者の行為若しくはこれと同視すべき行為と謂うことはできない。又控訴人は右の一連の行為は総債権者の利益にこそなれ、これを害するものではない特段の事由があるから否認権の対象とならないとも主張するが、本件残材等は前記の通り金六三万七九七七円以上の価格のものであるのに拘らず、金二〇万円という廉価で控訴人に売渡されたのであるから、この一事によつても、他の債権者を害しなかつたとは認めがたいし、従つて控訴人の善意もこれを肯定できない。のみならず前記乙第二号証と原審における証人橋本光の証言及び控訴人本人尋問の結果によると、控訴人の支払つた代金二〇万円と別に破産会社の所有に帰すべき金一九万三九三二円とをあわせた中から、控訴人主張の弁護士報酬、破産予納金等が支弁されたので、残金として金九万四一〇九円が残るわけであるが、この残金が現にどのように処置されたかについてこれを確知しうる証拠のないことに徴すると、本件無償譲渡によつてすべての破産債権者が害されなかつた特段の事由があると謂う控訴人の主張は採用できない。

更に控訴人は仮定抗弁として、控訴人が支払つた代金二〇万円は財団債権となつたら、これを自動債権として被控訴人の償還請求権と対等額で相殺すると抗弁するが、控訴人が約三〇名の債権者に支払つた金二〇万円の代金を右債権者らが破産会社の財産調査や破産申立の予納金等に費消したからといつて、そのことから当然に控訴人自身が破産財団に対し金二〇万の財団債権を有するに至るいわれがないので、この点に関する控訴人の主張は当を得ないものと謂うべきである。

然しながら被控訴人が残材等の価格より控訴人の支払つた金二〇万円を控除し、残額を請求するものであることは、被控訴人の自認するところであるから、被控訴人の否認権行使に基く残材等の価格の償還請求は前記金六三万七九七七円より金二〇万円を控除した金四三万七九七七円の限度でこれを認容するのが相当である。

次に被控訴人の別紙第一目録記載の物件の引渡請求及び原判決添付の別紙第三目録記載の小屋の取壊しによる損害賠償の請求について調べる。別紙第一目録記載の物件及び原判決添付の別紙第三目録記載の小屋二棟が昭和三三年七月初め頃破産会社の所有に属していたことは、控訴人の明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなす。控訴人は『右物件はいずれも破産会社より債権者へ譲渡され、右の債権者より更に控訴人がこれを他の物件とともに代金二〇万円で買受けた』旨抗争するけれども、右主張にそう原審証人深井広三郎の証言及び原審並びに当審における控訴人本人尋問の結果は措信しがたく、却つて原審における証人山口達朗、同橋本光、原審並びに当審における証人持田巧治の各証言によれば、右の物件はいずれも破産会社より債権者に譲渡されたことなく、又控訴人が債権者より代金二〇万円で買受けた物件にも含まれておらないことが明らかであるから、控訴人主張の抗弁は採用しがたい。

而して控訴人が別紙第一目録記載の物件を現に占有していることは、同人の認めるところであるから、所有権に基きその引渡を求める被控訴人の請求は正当である。

次に控訴人が前記小屋二棟を取壊してその取壊し材料を搬出してしまつたことは、同人の認めるところであるから、格別の反証のない本件においては、控訴人は少くとも過失により右の小屋を損壊滅失させたものと認めるほかはなく、右小屋二棟の当時の価格は前記甲第六号証及び原審における証人持田巧治の証言により合計金六万八〇〇〇円と認められるから、控訴人は損害賠償として同額の金員を支払う義務あるものと謂わねばならない。

以上の次第で被控訴人の本訴請求中、否認権行使による償還請求として金四三万七九七七円、小屋の損壊に対する損害賠償として金六万八〇〇〇円計金五〇万五九七七円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和三五年二月二六日以降完済迄年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分及び別紙第一目録記載の物件の引渡を求める部分は正当としてこれを認容すべきであるが、その余の請求は失当であるからこれを棄却すべく、これと異る原判決を右の通り変更すべきものである。従つて控訴人の本件控訴は理由がなく、被控訴人の附帯控訴は右の限度で一部理由があるがその余は失当である。よつて民事訴訟法第三八四条第三八六条第九六条第九二条第一九六条の各規定に則り主文の通り判決した。

(裁判官 梶村敏樹 室伏壮一郎 安岡満彦)

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